市民のための環境公開講座2018 認識から行動へ。学生から社会人までが参加する学びの場。

PART1 生きものの変化と気候変動を知る

レポート

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生き物が直面する環境変化 〜気候変動による生き物への影響を「多面的」に考える〜

気候変動問題により、生き物への甚大な影響が懸念される一方で、近年では、問題解決の鍵とされる再生可能エネルギーの開発による、生き物への影響が懸念され始めています。生き物への影響を防ぐため、我々はどのようにこの矛盾に対処すれば良いのでしょうか? 本講義では、基礎的な気候変動問題について学ぶとともに、生き物への影響の大きさに関して、気候変動による側面と、再エネの開発による側面の両方面から理解を深めていきます。

市川 大悟 氏

世界最大規模の自然環境保護団体

市川 大悟 世界自然保護基金(WWF)ジャパン 気候変動・エネルギーGr

1984年生まれ、愛知県出身。岐阜工業高等専門学校機械工学科を卒業後、東京農工大学農学部地域生態システム学科を卒業。エネルギー分野でのプラント設計のエンジニアを経て、2012年からWWFジャパン 自然保護室 気候変動・エネルギーGrに入局。
現在は、地域での再生可能エネルギーの普及を担当し、自治体等と協力した普及プロジェクトの立案・運営に携わる。


講座ダイジェスト

気候変動によって何が起きているか

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次報告書によると、地球の気温は過去130年間で0.85℃上昇。このまま私たちが何の対策もしなければ、2100年までに4℃程度上昇するとされています。そしてこの温暖化の影響は、すでに世界の至る所に現れています。例えば、北極海における海氷面積はすでに激減。もし4℃上昇が現実のものとなった場合、今世紀末までに海氷(夏季)は消滅する可能性があると言われています。CO2が海中に溶け込み起きる海洋酸性化は、このま進めば一部の海洋生物の殻や骨格形成に影響を与えると懸念されています。生活面においては、穀物類の生産量がすでに過去50年間で低下。アジアにおいては、洪水被害、熱中症、干ばつなどのリスクも高くなると予想されています。

一方、日本に目を向けてみましょう。気象庁の統計によると、世界の気温が100年当たり0.72℃上昇している中で、日本は1.19℃も上昇しています。もし温暖化対策が進まなければ、今世紀末には4.5℃上昇。東京の平均気温は、現在の15.4℃から19.4℃に・・・ちょうど屋久島並みにまで上昇すると見られています。また、降水量が増加することにより、河川に流入する土砂(浮遊砂)が今世紀末には最大24%増加、海面上昇によって砂浜は最大82%が消失する可能性が指摘されています。熱中症搬送者数は、約4℃の上昇で2倍以上になるとの予測があります。

気候変動の生き物への影響

IUCN(国際自然保護連合)によると、絶滅が危惧されている生き物の中で、地球温暖化を絶滅危機の要因の一つとする種の割合は12%=2835種(2017年8月時)に上るそうです。

生き物への温暖化による影響では、例えば、国内外の多くの海で見られるサンゴの白化が有名です。陸では、バオバブの木の枯死が最近話題になりました。樹齢数百年を超える、アフリカでも有数の大きさを誇る木々の枯死が始まっていることが、科学誌「Nature Plants」に発表されました。論文ではルーマニアの研究者が、その原因が気候変動である可能性を示唆しています。一方、日本に目を向けると、桜と楓に関する興味深い調査結果があります。1953年から2017年の桜の開花日は、10年当たり1日のペースで早まっており、同じ期間の楓の紅葉日は、10年当たり2.8日遅くなっているのです。

将来の影響はどうでしょうか? 今年3月のWWF UKの発表によると、もし4.5℃の気温上昇が起きた場合、アマゾンでは最大で6割程度、世界全体では約5割の生き物が絶滅の危機に瀕すると見られています。また、生物多様性の現状を評価する国際的な組織、IPBESの最新のレポートには、地域ごとの影響が記載されています。それによると、アジア・オセアニアでは「控えめのシナリオで進んでも、2050年までにサンゴ礁の90%が激しく劣化」、最も大きな影響を受けるアフリカでは「2100年までには、鳥類・哺乳類の半数以上と、多くの植物が消滅する」との可能性が示されています。

日本国内でも、様々な生き物への影響予測があります。例えばブナ林は、4℃程度の上昇で、北海道・長野の一部を除いてほぼ消滅。高山植物の代表でもあるハイマツは全国的にほぼ消滅します。一方、動物ではシカの生息域が増えていくと見られています。温暖化で積雪期間が減り、また人の居住地域も減っていけば、現在国土の約4割とされている分布域が約9割となり、食害が広がると考えられています。逆にハイマツに住むライチョウは、3℃上昇で個体数が約80%減少するとの予測があります。

ここまで、気候変動による生き物への直接的な影響の例を挙げてきましたが、間接的影響についても私たちは知る必要があります。それは、気候変動問題を解決するための手段である再生可能エネルギー開発が、時として生き物に影響を及ぼすことがあるという点です。

太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなどの発電施設は、利用資源のある自然豊かな場所に開発されることが一般的である上、施設が大規模になる傾向があります。他にも、風力であれば鳥がぶつかる“バードストライク”、地熱では、資源のある国立公園内での開発による景観への影響などの問題もあります。そのため、地域の理解が得られずに、再生可能エネルギー施設の開発が地元から反対されるケースもあります。

我々はここまで話した通り、温暖化による生き物への影響が小さくないことも忘れてはなりません。こうした開発が必要になるという側面も踏まえ、開発と保全のバランスを保てるようにすることが、いま社会に求められているのです。

私たちは気候変動をどう解決すべきか

最後に、温暖化を止めるために私たち一人一人ができることをお話ししたいと思います。まず第一に、「自らの削減」です。まずは省エネで減らし、さらにその使うエネルギーをクリーンにシフトすることが肝腎です。家庭から出るCO2排出量の約半分は電気の使用によることを踏まえれば、電気を変えることが一手です。概ね、電力会社は電源構成を公表していますので、より自然エネルギーを使っている会社を選びましょう。「パワーシフト」というサイトで調べることもできます。

第二に、「所属先での削減提案」です。企業は家庭より大きな規模でエネルギーを消費しています。やるべきことは個人の削減と同じですが、企業を動かすには大きな力が必要です。そこで、まずは目標を掲げることが有効になるのではないでしょうか。「何年までに何%削減」という数値設定や、その宣言を対外的に発表できるプラットフォームもあるので活用するのもいいでしょう。

第三に、「居住自治体への提案」です。地域で自然エネルギーを増やしていく際に、“開発か、保全か”という議論がよく起こりますが、その解決策として「ゾーニング」を自治体に提案するのです。WWFは、2014から約2年半、徳島県鳴門市で陸上風力発電を対象としたゾーニングプロジェクトに取り組みました。ゾーニングとは、地域関係者が話し合うことで、災害、騒音、景観、バードストライクなど、自然エネルギーの導入で起き得る影響を評価することで、施設を作るのに適切なエリアを割り出していくという取組みです。

温暖化がもたらす影響の大きさを考えれば、私たちは、こうした取り組みをどんどん進めていく必要があるのではないでしょうか。自身が取組むことはもちろん、近しい人にも呼び掛けることも、ぜひ積極的に検討してみて下さい。

構成・文:宮崎伸勝/写真:廣瀬真也(spread)